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祖父はタクシードライバーだった。車と釣りが好きで、中古の古い型のメルセデス・ベンツに乗っていた。今どきの車のようにスタイリッシュなフォルムでなく、もっと角張った、セダン型のグレーのベンツ。内装は木目調だったと思う。それを「おんぼろベンツ」などと冗談混じりに呼びながらも、とても丁寧に手入れをしていて、いつでもピカピカだった。今でもあの、車内の澄んだ匂いはなんとなく思い出せるような気がする。早くに亡くなってしまったので、祖父がどういう人間だったか、というのはあまり分からない。いつか祖父とレンタルビデオ店に行ったとき、店内のBGMでザ・ビートルズの『レット・イット・ビー』が流れていて、私がいい曲だね、と反応したら、趣味がいいと褒めてくれたこと、それがうれしかったことがやけに印象に残っている。商品名を付けるにあたって送っていただいた資料に、「おたまじゃくし?でしょうか!」と添えられていて、祖父のことを思い出したのだ。どこか公園の駐車場だったと思うが、例のベンツに私を乗せて桜を見に連れて行ってくれたことがあった。桜の木の下にあった側溝か水路のような所に、カエルの卵を見た。「おたまじゃくし」という言葉で、そのときの記憶が、祖父のことが、一瞬にしてフラッシュバックしたのだ。記憶のスイッチはふとした瞬間に突然起動し、時間軸の前後関係は混じり合う。今居る地点に、イメージや音や匂いが立ち上がってくる。今そこに居ない人、そこにない物のことを思うとき、心の中にはしんとした、ひとときの静寂が訪れる。「記憶とは、自身の内部に懐かしく立ち現れる、かく在りきイメージの再現行為ではなく、現在を分水嶺として、はるか前後へと連なっていく大いなる時間に向けて、したたかにかかわっていく心の領域のことだと思う」(森山大道、『犬の記憶』、河出文庫、2001年)

通常価格 ¥14,000 JPY
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セール 売り切れ
税込み。

Size: H110 x W140 x D185 mm
Weight: 623g
Material: Ceramic
Made in somewhere

Text by: Ryuta Hiruta

*古物・中古品のため写真には映りづらい経年劣化や細やかな傷があることがあります。そのほか写真の色味と実物とが若干異なる場合があります。気になる点や不明な点がありましたら、Contact よりお問い合わせ下さい。